本当はね、もっと時間がありますとゆっくりとあちこちのところでお話をしていきたいんですけれども、かなり今日は飛ばしていきます。そうしましたら、次は48ページの終わり頃から読んでいきます。

大乗教の中において、

  1. 真如縁起説(中観派)(空教)
  2. 頼耶縁起説(瑜伽行派)(中道教)

の対立となり、これがさらに、

  1. 一乗教
  2. 三乗教

の対立となった。

そうしてそれがそのまま日本の仏教界に持ちこまれ、奈良仏教の後半から平安仏教の全期を通じて対立し、鎌倉時代までつづくのである。この二大対立の教理は、最後には融合するのであるが、大乗仏教の基礎的教理をなすものなので、仏教を学ぶ者の必ず理解修得しておかなければならぬものとされている。

ちょっとだけ飛ばしまして、

中観派というのは、ナーガールジュナ(龍樹)を祖師として形成された学派で、ひと口にいうならば、『諸法皆空』を説く。諸法、つまり万物[というもの]は、それ自体実在しているものではなく、すべて『縁起の法』つまり因縁によって仮りにその形象をあらわしたもので、いわゆる『これあるがゆえにかれあり、かれあるがゆえにこれあり。これなくばかれなく、かれなくばこれなし』という相関関係[相互作用]によってのみ成り立つ。

それ自身が、自分だけで存在するという、そういうものではない。相関関係があって初めて成立する、ということです。

ゆえに因縁が解ければその現象は消滅し、その存在は無くなる。しかし、それは完全消滅してしまったのではなく、また別の縁が生起すればまた別の現象となってあらわれる。ゆえに万法の実相は、『有』でなく、『無』でなく、『空』であると説く。

全ては相互作用で、それがある種あっても何かと相互作用というものを持たなければ、それは現象として表現されない、現象として出てこない。

ある日本の高僧が、歌に託して、『ひきよせてむすべば柴の庵にて解くれば元の野原なりけり』と詠じたのは、この原理を示したものである。

これにたいして、瑜伽行派は万法[すべてのもの]は心識[こころ]の表象として存在する、と説く。

心識のほかに、独立して存在するものは一切みとめず、すべてのものは心識の所産であるという思想を説くので、唯識学派ともいわれる。

唯識とは、ただ表象(識)があるのみで、表象されるものが外界に存在するのではないという意味である。表象として心に映し出される形象、現象は、外界の存在物に属するのではなく、心識それ自体の内奥にあるのだと説くのである。

例えばこの本を見て、これがこの世に存在するというふうに思うところの形象というもの、それはどこから来るかと言うと、このもの(本)から来るのではないということですね。このものから来るんじゃなくて、実は我々の心の中、そこから実は発生しているということなんですね。まあこれが「唯識」っていうことなんです。

そうですね、これにはいろいろ面白いところがあるんです。例えば、一見全然違う話みたいですけどもね、我々には免疫機能というものがあります。で、非常に面白いのは、我々の免疫機能というのは、あらゆる物に対して準備ができているといわれているんです。宇宙の中、まだこの世に全く形成されてないものも含めて、あらゆる物が我々の免疫機能の中に、実は用意されていると。

何かね、非常に近い話のような感じがします。非常に面白い話ですね。何か、例えば何らかの病原菌が、発生して初めてそれに対して我々の中から抗体という物が、それに対応して作られるというのではなくて、どのような物がやって来てもね、あたかも初めから我々の方に、待ってました!というふうに、はいじゃあこれです、という感じに用意されている。まあそのように言われておりますけれども。

まあ今の所はね、とりあえず中観の思想と、それから唯識の思想のところ、まあそこだけぼんやりと感じていただければ結構です。

つまり空の思想というのは、さっき言ったように、物事は全て因縁であり、あらゆる物は相互作用によってその現象というものが起こる。仮に何かがここにあったとしても、これ自体は、何も引き起こし得ない。何かと相互作用を結んだ時に初めて、何らかの現象として表れる。これが中観の思想です。

例えば我々の認識作用にしてもね、我々の頭、我々の心(本当は、心について深く考えるとちょっと話がややこしくなるんですけれども)、いわゆる「認識作用」というものと、それからこの「何か」が縁を結んで、その作用を結んで初めて、「これがここにある」というふうに我々は認識をするわけです。

「これ」がただ単独であっても何も起こらない。我々の「認識作用」というものが、ただ単独であっても何も起こらない。「認識作用」というものと、「これ」とが縁を結んで初めて、「これが存在する」というふうに我々は思う、というわけです。

 

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