ではですね、少し無限ということについて考えていきたいと思います。無限。この無限ということは、私にとって、ずっと一貫して中心的なテーマでありました。無限とはいったい何か。そしてね、どうして中心的なテーマであったかと申しますと、無限になったとたんに全てがひっくり返るからなんです。全てひっくり返ります。何がひっくり返ってしまうのかっていうと、我々のいわゆる有限的思考です。この有限的思考というのは、実はね、いわゆる「合理的思考」のことです。今ね、括弧を付けました。括弧つきの「合理的思考」です。この括弧にどんな意味があるのかっていうことですが、いわゆる合理と言ってもすごくいろんなレベルがあるので、ここで呼んでいる合理というのは、狭い意味での「合理的思考」です。じゃあ括弧がない、合理的思考っていうのは何かって言うと、まさに宇宙の理に合っている、基づいている、そういう思考のことです。
この括弧付きっていっても何のことか通常分かりにくいので、本当の合理というものを宇宙的合理というふうにね、私はあえて呼んでいます。宇宙的合理。この宇宙的合理というのは、すごく簡単に言うと、いわゆる狭い意味での「合理的思考」プラスいわゆる非合理的思考です。このいわゆる非合理的思考というのは、本当は宇宙的には、ちゃんと合理的なんですけれど、狭い意味での合理では割り切れない、理解できないようなものを指しています。
無限というとこに行く前に、このいわゆる合理、非合理ということを、前回お話したことも重複しますけれども、非常に重要なことなのでもう一度お話しします。数学は思想だというふうに申しましたけれど、数学はすごいものだということを日々感じる訳です。合理非合理ということを、数学は非常に思わぬ形で、極めて見事に教えてくれる訳です。合理とは何か。
合理、これは英語ではrationalという言葉になります。逆に非合理というのは、このrationalの否定で、irrationalというふうに書きます。数学ではね、数、この合理的な数をrational numberというふうに言います。日本語では、合理的な数を合理数とは言わないで、有理数と言います。非合理的な数は非合理数とは呼ばないで、無理数と言います。これはね、単に数学でそのように呼んでいるというだけでなくて、すばらしい説明なんですね。
有理数、rational numberというのはどういう数字なのかと言うと、これは「確定した」「動かない」。ここっていうことが決まっている、確定した数なんです。例えば、2っていうと、ここっていう2の場所が決まっています。で、2.3256……325ってここで終わっているところがはっきりと決まっています。どのようなものであっても、とにかくこういうふうになっているもの、数学的に言うと分数で表せるものは、有理数になります。
もう少し言うと循環しない小数、まあいろいろあるんですけれども、とにかく基本的には分数になります。これは数学上、切断というふうに言っています。切断は、まさしく切ることです。カットすると言いますよね。数学でもね、切断、カットと言います。この切断ということを考えた、今から100年ちょっと前の数学者のデデキントっていう人がいますけれども、デデキントの切断、Dedekind cutというふうに言っています。で、結局これはね、非常にすばらしい表現なんです。どういうことかって言いますと、数直線において有理数というのは、ある場所ですぱっと切れる。切れるとこなんです。ここだって決まっているんです。これが有理数。
では無理数というのはどういうふうな数字なのかというと、切断できないんです。無理数は切断できない。無理数は、例えば√2とかです。√2っていうのは1.41421356…こうどんどん続いていく訳ですね。循環せずに、無限に続いていきます。無理数は切断できません。じゃあどういうものかっていうと、無理数は隙間なんです。隙間。じゃあ何の隙間ですかっていうと、有理数と有理数との隙間です。じゃあこの√2は何ですかって言うと、この√2は、1.4よりは大きいけれども、1.5よりは小さい。そうですよね。√2は、1.4よりは大きいです。1.41…ってなってますから、1.4よりは大きいけれども、1.5よりは小さい。また、1.41よりは大きいけれども、1.42よりは小さいですね。で、1.414よりは大きいけれども、1.415よりは小さい。1.4142より大きいけれども、1.4143よりは小さい。というふうにね、いつまでも永遠にここって言えなくて、どこまで行っても、これよりは大きいけれどもこれよりは小さい、ということしか言えない数なんです。どこまで行ってもそれしか言えません。だからこの数は、これとこれとの隙間にあるっていうことは、いつまでもずっと変わりません。その隙間の大きさが大きいところからだんだん縮まっては行きますけれども、どんなに縮まっても、その隙間はね、決してゼロにはならない。決まらない。どこまで行っても。だからこれは隙間なんです。
そうするとね、いわゆるゴールって言っているのはまさにね、すぱっと「これだからこう」という思考でしょ。いわゆる合理的っていうのは。一方でいわゆる非合理的というと、すぱっと「これだからこう」とは言えないですよね。これかっていうと、うーんちょっと違うかなと。もうちょっと表現を強めると、こう言うとちょっと言い過ぎかなとかね、どこまでもとても曖昧なものですね。一義的に決まらない。これはまさに隙間なんです。その隙間の精度というものですが、どこまでも隙間の精度は高められるけれども、その隙間そのものは決してなくならない。そしてね、非常に重要なのは、どちらも無限にあることです。有理数の数も無限にありますし、無理数の数もやはり無限にあります。